母から子へ受け継がれる「地図のない旅」。インドとネパールの国境を越える象たちの伝統

インドのウッタル・プラデーシュ州にあるカタールニアガット野生生物保護区と、隣国ネパールのバルディア国立公園の間では、長い年月を経て今も変わらず、象の群れによる壮大な移動が繰り返されています。

この旅を導くのは、群れの中で最も経験豊富な「長老」の雌象です。彼女たちはGPSや標識を必要とせず、母から娘へと世代を超えて語り継がれてきた「記憶の地図」を頼りに、最適な水場や餌場へと群れを率います。道中、川を渡る際には大人の象が子象を囲うように守り、浅瀬を選んで渡る様子は、単なる移動を超えた、彼らの社会に根付く深い絆と伝統の表れです。 2026年8月、インド最高裁は、こうした象たちの移動経路が人間の居住区や農地と重なっても、伝統的なルートを遮断してはならないとの判断を示しました。現在、地域住民と象の共存を目指す取り組みとして、地元住民が象の移動を見守り、安全な誘導を支援する「ガジャミトラ(象の友人)」プログラムなども進められています。彼らにとっての移動は、ただの場所移動ではありません。それは、彼らの文化そのものを未来へ繋ぐための、大切な継承の儀式なのです。










