ベトナムの食卓を支え続けた「||Cà mên《カメン》」:多層式ランチボックスが語る時代の記憶

ベトナムの日常風景で、今も病院やオフィスで見かける多層式の金属製ランチボックス「|Cà mên」。フランス語の「ガメル(飯盒)」を語源に持つこの容器は、単なる弁当箱を超え、ベトナムの激動の歴史を共にしてきた存在です。 かつてフランス統治時代には、サイゴンの飲食店で月極めの食事サービスを利用する際、この容器に料理を詰めて持ち帰るスタイルが定着していました。

当時の新聞広告にも、この容器で食事を持ち帰れることが宣伝されていたほどです。その後、戦時中には兵士たちの過酷な生活を支える必需品となり、さらには戦後の物資不足の時代においても、少ない食料を大切に持ち運ぶための「命を繋ぐ器」として市民生活に深く根を下ろしました。 当時、自転車のハンドルにこれをぶら下げて通勤する公務員たちが「カメンの役人」と揶揄されたこともありましたが、この容器には、配給制度下の厳しい食卓事情から現代の豊かな食文化まで、市民の生活の変遷がすべて詰まっています。 時代が変わり、今ではおしゃれなランチボックスも増えましたが、古いアルミ製のカメンは今も台所の隅で出番を待っています。

蓋を開けるたびに、今日のおかずは何だろうと期待に胸を躍らせるその瞬間は、時代を問わず、多くのベトナム人にとって変わらない心温まる儀式であり続けています。










